心霊スポットで取り憑いた、女性の怨霊(2)
本当に怖い霊によるトラブルの数々 ②
しかし、私は再びT君に会うことになります。それも、前よりもずっとやつれたT君に。2週間ほどして、そう言えばT君はどうなっただろうと思い出した私は、友人に連絡を取り彼のことを尋ねました。友人はすぐに弟さんに訊いてみたようで、その日の夜には返事が戻ってきて、T君の調子が更に悪くなっていることを知ります。これは、思ったよりもタチの悪い霊だったのかもしれない…とすぐにT君に会う段取りをつけました。それから2日後に会ったT君は、目の下にはっきりとした隈ができ、若干頬がこけ、目が充血した、前に見たイケメンの彼が連想できないような姿になっていました。何があったのかを訊くと、私が教えた除霊方法を試すと、数日は調子がよかったのだけれど、突然もっとひどい倦怠感に襲われるようになり、金縛りや部屋のラップ音、怪奇現象の頻度が増し、ついには女の声で『ゆるさない……』とささやき声が聞こえるようになったそうで、T君は完全にまいってしまっていました。確かに、T君の後ろに見える影も、以前とは比べ物にならないくらい大きく育っています。おそらく彼の生気を吸い取って、大きくなったのでしょう。
こうなると簡単な除霊ではらちがあきません。本格的な除霊、できれば憑いている霊を成仏させなければいけません。幸い弟さんの方は問題がなかったので、私がT君の家に行って除霊することにしました。訪れたT君の家は少し広めのワンルームで、男の1人暮らしにしては片付いた部屋でした。しかし、足を踏み入れた瞬間から、「お前は出て行け」といった悪意をビシバシ感じます。体に嫌な物がまとわりつくのがわかります。入り口でお香を焚くと、T君と私は部屋の中央で向かい合って座り、彼にも特製の数珠を渡し、2人で合掌しました。T君には目をつむってもらい、できる限り開けないよう、そして「霊に出て行ってほしい、自分は何もできないから離れてほしい」ということを強く思っていてほしいと頼みました。呼吸を整え、お経を唱え始めます。部屋にはお香の煙とにおいが充満し、独特の雰囲気が生まれました。そうしているとピシピシッとラップ音がして、T君の体が揺れ出します。こちらは淡々と、お経を唱え続けるだけです。T君の体は次第に小さく跳ねるような動きをして、口からは低いうなり声が出るようになりました。憑依されています。憑いている霊を上手く出さなければ、T君の体にもよくない。そう思い、心の中で「T君に憑いている霊よ、速やかにそこから出て行きなさい。あなたのいていい場所ではありません」ということを霊に伝えました。すると、T君の口から『ゆるさない……』と低い、T君の声とは違う声で聞こえてきました。
『わたしをすてることは……ゆるさない……ぜったいに、はなれない』
霊はゆっくりと、T君の口を借りて言葉を吐き出します。実際にはとても聞き取りづらい、途切れ途切れの言葉です。しかし、霊の発する言葉はそこに怨念がのっていて、聞いているだけでも背筋がゾクリと震えるような寒さを感じました。断片的にですが、霊の想いがこちらに流れ込んできます。そこにあるのは圧倒的な「恨み」。どうやらこの霊は、愛する夫に捨てられ、それが原因で自死をした女性のようでした。生前、死ぬ間際の夫のへの恨みが強すぎ、死んでからT君の行った心霊スポットで地縛霊となって、人に取り憑き悪さを働いてきたようです。霊は優しい人が好きなのですが、恋愛、情愛絡みの恨みを持った霊というのは特に、優しい異性が好きです。この人なら優しいから、自分を受け入れてくれるはず、傍にいてくれるはず…という霊の思いが、取り憑いた人に向けられます。取り憑かれる方も、持ち前の優しさから、無意識でそういう存在に同情してしまい、拒絶することが難しいのです。
お経を唱えながら、憑依されたT君を前に、心の中で霊に向かって話し続けます。「昔つらいことがあったのだとしても、それはこの青年には関係ない。あなたも、もう苦しむだけでなく幸せにならなければならない。行かなければならない場所があることを、知っているはずだ」。流れ込んでくる霊の思いに言葉を返したりもしながら、だからといって同情して、心をゆるしてしまわないよう一定の距離を保つ。あなたのやっていることは間違っているということをはっきり伝え、ただ苦しむ霊が成仏するように祈りをささげました。 すると、最後の抵抗を示すように霊はT君の体を使って、跳ね上がり、吠え、狂ったように頭を振り乱すと、それからボロボロと、やはりT君の目を借りて大粒の涙をこぼし、『つらかった……つらかった……』と呟きながら成仏していきました。話の通じる霊でよかったと、ほっと肩の力を抜きます。
こうしてT君に憑いた霊の除霊は無事終わり、彼は元の生活へと戻っていきましたが、その前にもう一度、くれぐれも心霊スポットには近づかないようにと言うことと合わせて、人に同情するばかりが優しさじゃないよと、つまらないお説教も付け足しておきました。T君は持ち前の優しさから、困っている人を放っておけない性格をしているそうです。とてもいいことなのですが、霊に付け入れられると厄介な部分でもあります。T君の場合は比較的すんなりと霊が成仏してくれたケースですが、本当にタチの悪い霊になると、成仏させるのが難しいこともあります。その場合どうなるか…取り殺されるよりももっと恐ろしい、最悪のケースもこの世には存在します。ですので、霊には近づかない、関わらないようにするのが一番です。皆さまも、くれぐれもお気を付けください。